会社で泣く女

泣いちゃった。てへ☆ きもいとか言うな。

今日が仕事の締め切りだったわけだが、子供たちが田舎での夏休みを終えて帰ってきてからは、平日は18時までに次男を保育園に迎えに行かねばならぬので、17時15分の定時に何がなんでも帰らねばならず、一切残業はできない。

そういうわけで、そもそもがあほみたいにやらねばならぬ作業があったので最初からそのつもりでいたのだが、この週末は夫に子供たちのことを頼み仕事に明け暮れた。30日、土曜日の朝9時前に出社し、帰宅したのは今日、9月1日午前10時過ぎであった。

まぁ若い頃にはよくあることで、私も3〜4日間デザイン事務所に寝泊りなんてのは日常茶飯事だったんだけど、まさか2人も子供持ったこの歳になってこんな事しなきゃいけなくなるとは思ってなかった。びっくりだ。でも仕事ができるというのは掛け値なしに楽しくて、嬉しい。スタッフもみんな本当に良い人たちで大好きだからさらに楽しい。

じゃぁなんで泣いたのかと言うと、仕事が辛いとか泊まり作業が辛いとかじゃなく、48時間超、会社に缶詰で、しかしそれでも先の読めない、達成感など得られそうにもないぐだぐだな進行の中での作業に埋もれていても、「できなかった時はできなかった時」という割り切りもあったから余裕であったし、「もう無理」と思えば仮眠もしたから締め切りが数時間後に迫った本日月曜早朝でもまだ平常心だったのだ。

暗雲が立ち込めはじめたのは、今朝方4時か5時くらいからだったろうか。締め切りが目に見える距離で直前に迫ってくるなか、ようやく形をなしてきた制作物に山のような不手際が見つかり焦った上長がわめき散らしはじめたのだ。現場のこちらは「こんなやり方しててそんなの当然じゃん」程度のことなのだけど彼はそんなことまるで予想してなかったんだろう。怒鳴るわ蹴るわ当り散らすわ、えらい騒ぎなのだ。

それでも私は「あほか、知らんわ」と無視していたのだが、一緒に泊まり作業していたもう一人の若い男の子にその矛先が向かいはじめたときに私ももう平常心ではいられなくなった。

彼はとても真面目で前向きで頑張り屋さんで明るくてやさしくて、だけどとても繊細で、それに比べて図太い私はこの2日間のあいだにそれぞれ3〜4時間くらいは寝たと思うのだけど、彼は土曜日は少し寝ていたものの、日曜日の朝くらいからはほとんど寝ておらず、上長ががなりはじめた頃には既にどこから見ても限界を超えて朦朧としてとても作業ができる状態になかった。

隣のデスクから「いいから少し寝なさい、休みなさい」と私が言っても「はい、もう少し頑張ります」と言う。「ほんとに大丈夫だから休みなさい、心配しなくても大丈夫だから」と言っても「はい」と言うだけで席を立とうとしない。それどころか、私がそう声をかけるたびに問題の上長が休ませまいとちゃちゃを入れてくる。だから彼は余計に席を立てない。もうとっくに限界を超えているというのに。

そしてついに彼は最後の勇気を振り絞ったのか、上長の良心を信じて賭けたのか、「少しだけ仮眠してきていいですか」と言った。上長は「自分で判断しろ」と言った。彼は「すいません」とようやく席を立って仮眠室に使っている応接室に向かった。そのドアが閉まった瞬間に上長は大声で「なんなんだよこのくそが!」と怒鳴った。私の心はここで沸点を超えた。そして彼は、その上長の声が聞こえていたんだろう、10分もせずに席に戻ってきた。

私が泣いたのは、このやりとりを見て、ただ客観的に「彼がかわいそう」とかいうのじゃなくて、あのときなんであの頭の足りない上長に「それはないですよ」と一言言えなかったんだろうってことだ。彼にはやさしい声をかけてあげられても、私は自分があの上長とかかわりあいたくなくって彼を守ってあげようとしなかった。それが情けなくて悲しくて腹立たしくて、もうどうしようもなかった。そのときわっと泣き出したわけではなかったのだけどね。

私は仮眠を済ませていたし、作業のめども立っていたので、いらつきはしたけどまだ冷静に自分の作業を進めていられたのだけど、いよいよ締め切りを2時間前くらいに控えた頃、家から電話が来て長男が昨夜から熱を出していると聞く。「今日も仕事休めないよね?」と遠慮がちにやさしく聞いてくれる夫に「いや、締め切り過ぎたらもう帰ります」と言った瞬間に一気に涙腺崩壊。

何をやってるんだ私は、何をやらせてるんだこの会社は、もうすべてがばかばかしい、そもそもすべてがばかばかしいと思っててもみんな頑張ってる中で自分もがんばってる、みんな思うことはばらばらだろうけどみんな何かを大事にしてがんばってる、それを支えに不本意でも黙々とがんばってる、もうそれこそばかみたいに、たかが仕事なのにさあ!

こういう現場で、仕事を苦に死んじゃったりする人もいる昨今、今までは「え、なんでそんなことで死んじゃうの」とピンとこなかったところもあったんだけど、今回は、「ああ、こりゃ死ぬ人は死ぬな」と思った。そして私の大好きな私のまわりの人たちがそうなるんじゃないかと心底不安になったし悲しくなった。でもどう手を打てばいいのかわからずただうろたえて涙が出る。そんな今日。

私が泣いているのを、今朝方出勤してきた他部署の社員たちは不思議そうに見ていた。仕事のことで泣くなんて20代前半ぶりくらいで私だって死ぬほど恥ずかしかった。悔しくてさらに涙が出る。単に疲れすぎてたからかもしれないんだけどさ。

機械になって永遠の命を手に入れられたって、心を失ってしまうのでは何の意味もない、みたいなことを言った銀河鉄道999のテツロウみたいな、そんな今日なんでしたよ。

あー、こんな会社いたらほんとどうかなるーたすけてー。