ありがとう

机の上には山のような宿題。どれから片付ければいいのか、いややるべきなのかやらなくてもいいのか、それすらわからなくて私はすぐに目の前が真っ暗になってしまうんだ。


今朝、ドタバタと食卓を片付けバッグを肩に抱え、次男の手をひいて玄関に飛び出そうとしたとき電話が鳴った。時間がないのに、と、ちょっといらつきながら電話に出ると、のんびりとした声で受話器から「おはよう」と母の声。またか、と思いながら「なぁに?ごめん、もう出るとこなんだけど」と大げさに都合の悪さを声音に出しながら言うと、「うんうん、ごめんごめん、一言だけ言っておこうと思って」。
「お誕生日おめでとう。それだけだよ」
実は今日は誕生日だった。でも自分でも忘れてたんだ。私が急いでいるのに気を使って焦って「今度行くから、お誕生日のお祝いに何か送りたかったけど間に合わなくて、今度会ったときにたーくさんお祝いしよう、それだけそれだけ、じゃあね、気を付けて、いってらっしゃい」。


母よ。私はこの十数年、誕生日の最初にあなたから「おめでとう」と言われた記憶がないのです。いつも、「ママいつも忙しいから誰の誕生日も覚えていられないのよ、ごめんね」って言ってたじゃないの。
「あぁ、ありがとう。うんうん、ありがとう、ごめんね、急ぐから」と電話を切る時には、涙が一筋、私の頬を暖かく濡らしました。


母とは、いつもこういうものだな、と、つくづく思う。あなたに心から感謝します。